一 理髪師(とこや)の源助さんが四年振で来たといふ噂が、何か重大な事件でも起つた様に、口から口に伝へられて、其午後(ひるすぎ)のうちに村中に響き渡つた。 村といつても狭いもの。盛岡から青森へ、北上川に縺(もつ)れて逶迤(うねうね)と北に走つた。坦々たる其一等道路(と村人が呼ぶ)の、五六町並木の松が断絶(とだ)えて、両側から傾き合つた茅葺勝(かやぶきがち)の家並の数が、唯(たつた