びょういんのまど
病院の窓

冒頭文

野村良吉は平日(いつも)より少し早目に外交から帰つた。二月の中旬過(なかばすぎ)の、珍らしく寒さの緩んだ日で、街々の雪がザクザク融けかかつて来たから、指先に穴のあいた足袋が気持悪く濡れて居た。事務室に入つて、受付の広田に聞くと、同じ外勤の上島(うはしま)も長野も未だ帰つて来ないと云ふ。時計は一時十六分を示して居た。 暫時(しばらく)其処の暖炉(ストーブ)にあたつて、濡れた足袋を赤くなつて燃え

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 石川啄木全集 第三巻 小説
  • 筑摩書房
  • 1978(昭和53)年10月25日