そうれつ
葬列

冒頭文

久し振で帰つて見ると、嘗(かつ)ては『眠れる都会』などと時々土地(ところ)の新聞に罵られた盛岡も、五年以前とは余程その趣を変へて居る。先づ驚かれたのは、昔自分の寄寓して居た姉の家の、今裕福らしい魚屋の店と変つて、恰度自分の机を置いた辺(あたり)と思はれるところへ、吊された大章魚(おほだこ)の足の、極めてダラシなく垂れて居る事である。昨日二度、今朝一度、都合三度此家の前を通つた自分は、三度共此大章魚

文字遣い

新字旧仮名

初出

「明星 十二号」1906(明治39)年12月

底本

  • 石川啄木全集 第三巻 小説
  • 筑摩書房
  • 1978(昭和53)年10月25日