とびらはかたらず (またはにちょくせんのえんちょうについて)
扉は語らず (又は二直線の延長に就て)

冒頭文

1 「事件は今から六年前、九月三十日、午後八時から九時までの間に、いわゆる東京六大百貨店の一、S百貨店に突発した、小いさな出来事だ。大百貨店に於ける一装飾工の惨死! このことに興味を抱(いだ)いた君が、これからS百貨店へ行って、六年以上勤続の店員に訊ねることは無駄だ。恐らく、誰もそんな事件に就いては初耳だ、と答えるだろうから—— 然し、当夜此(こ)の惨事に立会ったものは、店内関係者としては

文字遣い

新字新仮名

初出

「猟奇」1930(昭和5)年4月号

底本

  • 「猟奇」傑作選 幻の探偵雑誌5
  • 光文社文庫、光文社
  • 2001(平成13)年3月20日