あかるく・くらく
明るく・暗く

冒頭文

一 天井の隅に、小さい四角な陽(ひかり)がひとつ、炎(も)ゆるやうにキラキラと光つてゐた。湯槽(ゆぶね)の上の明りとりから射し込んだ陽が、反対の壁にかゝつてゐる鏡に当つて、其処に反映してゐるのだつた。 純吉は、先程(さつき)から湯槽に仰向けに浸つて、悠々と胸を拡く延しながら、ぼんやりとその小さな陽を眺めてゐた。——快い朝だ、と彼は沁々と思つた。……帰省して以来間もなく一ト月にも

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人公論」中央公論社、1924(大正13)年11月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日