あきばれのひ
秋晴れの日

冒頭文

一 彼は、飲酒があまり体質に適してゐないためか、毎朝うがひをする時に、腹の中から多量の酒臭い不快な水を吐き出した。前には、それは時々のことだつたがこの頃では、これが定めとなつてしまつた。そして、これも前には稀(たま)であつたが、この吐く水がなくなると、一層激しく、胸や腹が、空々しく、苦しく、ゲクゲクと鳴つて、それから苦く黄色い胃液を吐き出した。 大体彼は、生来健康な質だつたから

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第四十三巻第四号」新潮社、1925(大正14)年10月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日