あくひつ
悪筆

冒頭文

縁側の敷居には硝子戸がはまつてゐる。 あたり前の家と同じく勿論これは昼間だけの要で、夜になれば外側に雨戸が引かれるのだと私は、はじめ思つてゐたのだつたが、それが、これ一枚で雨戸兼帯だつた。——夜になると、この内側には幕を降ろさなければならなかつた。 八畳、四畳半、玄関三畳——間数はこの三間で、家の形ちは正長方形である。私は、この家の主人となつていつも八畳の何一つ装飾のない床の間

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十三巻第一号」新潮社、1926(大正15)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日