おうむのおもいで
鸚鵡の思ひ出

冒頭文

一 「いくら熱心になつたつて無駄だわよ。——シン。鸚鵡だからつて必ず言葉を覚えるときまつてはゐまいし。」 アメリカ娘のFは、さう朗らかに笑つて私の肩を叩いた。足音を忍ばせて彼女は私の背後に近寄つたのだらう、声で、私は初めてFに気づいて振り反つた。 「僕は何もグリツプに言葉を教へようとしてゐたんぢやないさ。」 グリツプと称ふのはFが飼つてゐる此の鸚鵡の名前である。 「お

文字遣い

新字旧仮名

初出

「都新聞 第一二九八六号~第一二九八九号」都新聞社、1924(大正13)年2月23日~26日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日