かいどうのいえ
海棠の家

冒頭文

おそらくあの娘は、私より二つか三つぐらゐの年上だつたに違ひないのだが私には相当のおとなに見えた。兄弟はないらしかつた。 私の家にも稀には母親に伴れられて遊びに来たのであるが、よそに来ると私とさへ碌々口もきかずに母親の蔭で愚図ばかり鳴らしてゐたので、そこでの記憶は何も残つてゐない。あの家でのあの娘の記憶はところ〴〵ばかにはつきり残つてゐるにもかゝはらず——。 はつきりとしてゐる気

文字遣い

新字旧仮名

初出

「サンデー毎日 第五巻第二十六号」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年6月13日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日