かげひなた
蔭ひなた

冒頭文

或る朝、私が朝飯を済ませて煙草を喫(ふか)してゐるとAが来て、あがらないで、 「君、直ぐ散歩へ行かう、早く早く、直ぐ仕度をして呉れ。君は斯ういふ服装は持つてゐないか? あゝ、さうか、無ければたゞの洋服でよろしい、大急ぎで着換へないか。」と、大変勢急に口走ると私の返事も待たずに玄関を出て、そこの露路を気忙し気に口笛を吹きながらあちこちと往復してゐるのです。見るとAは、鳥打帽子、バンドつきの上着

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第四十一巻第五号」中央公論社、1926(大正15)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日