きょくやのき
極夜の記

冒頭文

静かな、初秋の夜である。 もう、幾日といふことなく、漫然とまつたく同じ夜ばかりを送り迎へてゐるのだが、夜毎に静けさが増して来るやうだ。 要があつて、斯うしてゐるわけではない、昼間ぐつすりと眠るので、夜は眠れないだけのことである、不思議はないのだ。神経衰弱でもなければ、不眠症とかといふ病ひでもない、簡単な昼・夜転換なのである。沁々退屈した。独りで毎晩、余儀なく斯うしてゐるのは自分

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第三巻第十号」文藝春秋社、1925(大正14)年10月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日