すいかくうひと
西瓜喰ふ人

冒頭文

滝が仕事を口にしはじめて、余等の交際に少なからぬ変化が現れて以来、思へば最早大分の月日が経つてゐる。それは、未だ余等が毎日海へ通つてゐた頃からではないか! それが、既に蜜柑の盛り季(どき)になつてゐるではないか! 村人の最も忙しい収穫時(とりいれどき)である。静かな日には早朝から夕暮れまで、彼方の丘、此方の畑で立働いてゐる人々の唄声に交つて鋏の音が此処に居てもはつきり聞える。数百の植木師が野

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十四巻第二号」新潮社、1927(昭和2)年2月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日