ちちのひゃっかにちぜんご
父の百ヶ日前後

冒頭文

一 彼が、単独で清友亭を訪れたのはそれが始めてだつた。——五月の昼日仲だつた。 「先に断つておくがね、僕今日は用事で来たんぢやないよ。……芸者をよんで、そして僕を遊ばせて呉れ。」 彼は、玄関に突ツ立つて、仏頂面でそんな言訳をした。彼の姿を見ると、女将は眼を伏せて、黙つて頭をさげた。それで彼は、一寸胸が迫つたので、慌てゝそんな気分をごまかす為に、決して云ひたくはなかつたのだが、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第三十九巻第十一号」中央公論社、1924(大正13)年10月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日