なぎさ

冒頭文

一 「まア随分暫らくでしたね。それで何日此方へ帰つたの?」 河村の小母(をば)さんは、何の挨拶もなく庭口からのつそりと現れた純吉を見つけて、持前の機嫌の好さで叱るやうに訊ねた。 「四五日前……」 純吉はわけもなくにやにやしながらうつかりそんな嘘を吐いた。 「だつて学校は余程前からお休みだつたんでせう?」 「えゝそりやアもう七月の初めから休みだつたんですが、一度此方へ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「サンデー毎日 第三巻第二十九号」大阪毎日新聞社、1924(大正13)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日