ばんしゅんのけんこう
晩春の健康

冒頭文

羽根蒲団の上に寝ころんでゐるやうだ——などゝ私は思つた位でした。——午頃まで、この儘眠つてやらうかしら、などゝも私は思つたりしました。 春先で、思ひ切り好く晴れた朝の海辺なのです。——もう、かれこれ二時間も前から私は渚の暖かい砂の上で退屈な、然し極めて快い愚考に自ら酔つたまゝ、思ふさま胸を拡げて大の字なりにふんぞり反つてゐるのです。その私の肉体は、単に洞ろな、たゞ一寸軽い頭の爽々しさだけ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第八巻第六号」朝日新聞社、1925(大正14)年8月2日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日