ひかりによったふうけい
陽に酔つた風景

冒頭文

一 鶴子からの手紙だつたので彼は、勇んでY村行の軽便鉄道に乗つた。勇んで——さうだ、彼は、ちよつと自分の姿を傍(わき)から眺めて見ると、あまり勇みたち過ぎてゐる自分が癪に触るほどだつた。 何とまあ自分は気の毒な慌て者だつたことだらう——彼は辛うじて間に合つた汽車の窓に腕をのせて、真盛りの莱畑を眺めながら、あんな手紙位ゐでこんなにも一個の人間が有頂天になるものか! などゝいふ風なこと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第十五巻第二十四号」朝日新聞社、1929(昭和4)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日