ふゆのふうりん
冬の風鈴

冒頭文

三月六日 前日中に脱稿してしまはうと思つてゐた筈の小説が、おそらく五分の一もまとまつてはゐなかつた。それも、夥しく不安なものだつた。ひとりの人間が、考へたことを紙に誌して、それを読み返した時に自ら嘘のやうな気がする——それは、どちらかの心が不純なのかしら? この頃の自分は、書き度いことは全く持つてゐないと云ふ状態ではないのに。 言葉が見つからないのか! 今日になれば、あれもこ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第四巻第四号(四月特別号)」文藝春秋社、1926(大正15)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第二巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年3月24日