やぶのほとり
籔のほとり

冒頭文

一 どうして此処の座敷の欄間にはあのやうな扇があんな風に五つも六つもかゝげてあるんだらう! 装飾の意味にしてはあくどすぎる! 何となくわけあり気に見えるではないか? それにしてもあれは一体何に使ふものなのだらうか? 扇子には違ひないが、あれを扇子に使ふ者は仁王より他にはあるまい! 樽野は祖母の家に来る毎によくそんなことを思つたことがあるが、別段誰に訊ねようともしなかつた。扇だが、あた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第二十四巻第七号」新潮社、1927(昭和2)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日