やまびこのまち
山彦の街

冒頭文

一 哄笑の声が一勢に挙つたかと思ふと、罵り合ひが始まつてゐる——鳥のやうな声で絶叫する者がある、女の悲鳴が耳をつんざくばかりに聞えたかと思ふと、男の楽し気な合唱が始まつてゐる——殴れ! とか、つまみ出してしまへ! とか、そんな凄まじい声がして、「あゝ、痛いツ!」「御免だ……」「救けて呉れ!」そんな悲鳴が挙つたりするので、これは容易ならぬ事件が起つたのか! と思つて誰しもちよいと立止つて様子を窺つた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第七巻第六号」文藝春秋社、1929(昭和4)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日