やまをこえて
山を越えて

冒頭文

一 彼女等の夫々の父親からの依頼で二人の娘をそちらへおくることになつたから、彼女等を夫々オフイスの一員に加へて貰ひたい、詳しいことは当人達からきいての上で、山の見学を望んでゐる二人の幼い学生達に能ふだけの満足を与へて欲しい——。 滝は、暖炉の傍で、父親からの英字タイプで打つたそんな意味の手紙を読んで軽い迷惑を感じた。 その頃彼の自家(うち)で主になつて経営してゐた或る

文字遣い

新字旧仮名

初出

「太陽 第三十三巻第四号」博文館、1927(昭和2)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日