スプリングコート |
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冒頭文
一 丘を隔てた海の上から、汽船の笛が鳴り渡つて来た。もう間もなくお午(ひる)だな——彼はさう思つただけで動かなかつた。いつもの通り彼は、まだこの上一時間か二時間はうと〳〵して過す筈だつた。日が射してまぶしいもので、頭からすつぽりとかひまきを被つたまゝ凝(ぢつ)と小便を怺へてゐた。硝子戸も障子も惜し気なく明け放されて、蝉が盛んに鳴いてゐた。 「もう暫く眠つてやれ。」 彼は、たゞ
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新潮 第四十巻第一号」新潮社、1924(大正13)年1月1日
底本
- 牧野信一全集第二巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年3月24日