かっきょぐうろく
客居偶録

冒頭文

其一 旅心 暫らく都門熱閙(ねつたう)の地を離れて、身を閑寂たる漁村に投ず。これ風流韻事(ゐんじ)の旅にあらず。自から素性を養ひて、心神の快を取らんとてなり。わが生、素(も)と虚弱、加ふるに少歳、生を軽うして身を傷(やぶ)りてより、功名念絶えて唯だ好む所に従ふを事とす。不幸にして籍を文園に投じ、猜忌(さいき)の境に身を揷めり。斯の如きは素願にあらず、希(ねがは)くは名もなく誉もなき村人の中に

文字遣い

新字旧仮名

初出

「評論 九號」女學雜誌社、1893(明治26)年7月29日

底本

  • 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
  • 筑摩書房
  • 1969(昭和44)年6月5日