ゾイラス
ゾイラス

冒頭文

海の遠鳴りをきゝながら私は、手風琴を弾いてゐた。そのダクテイルが、ひらひらと潮の音に逆つて低く高く青白い虚空を衝いて飛んで行くと、私の魂も夢も片々たる白い蝶々と化して、波を乗り越え、宙に翻つて、無何有の沖へ沖へと雪崩れを打つて消えて行つた。 私は、脚を卓子の上に重ねて、椅子の背に頭を載せかけたまゝ「海賊」の詩(うた)をうたつてゐた。 “…… …… …… Ours

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第十巻第十号」文藝春秋社、1932(昭和7)年9月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日