ろじのとも
露路の友

冒頭文

一 おそく帰る時には兵野(へいの)は玄関からでなしに、庭をまはつて椽側から入る習慣だつたが、その晩は余程烈しく泥酔してゐたと見へて、雨戸を閉めるのを忘れたと見へる。 朝、階下の者が慌しく兵野の寝部屋をたゝいて、 「盗棒が入りました。」 と呼び起された。 主に兵野の衣類ばかりが紛失してゐた。彼は酒呑みで、着物のことには殆んど頓着なかつたから、それらは主に彼の亡く

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 オール讀物号 第二巻第四号」文藝春秋社、1932(昭和7)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日