らちゅうしょう
裸虫抄

冒頭文

横須賀にゐる妹(彼の妻の)のところで、当分彼の息子をあづかりたいと云つて寄越したのである。子供のない慎ましい夫婦暮しで、文学の本ばかり読んでゐる妹であつた。彼の息子は、彼が転地療養をすることになつたが、学校の都合で東京の親戚にのこつてゐた。 「トモ子のところなら安心だわ。トモ子はだらしがないけれど、ひとのことには親切だし、それに朝雄さんが責任の強い人だし。」 と彼の妻は落着いてゐた。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十二巻第三号」新潮社、1935(昭和10)年3月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日