まちかど
街角

冒頭文

一 郊外に間借りをしてゐた森野が或る夕方ステツキをグル〳〵回しながら散歩してゐると、停車場のちかくで、ひとりの美しい婦人に呼びかけられた。 「……誰方(どなた)でしたかしら?」 森野はそんな婦人に心あたりもなかつたので、思はずさう訊き返さうとした時、 「あゝ、服部さんの奥さんでしたね。」 と気づいた。 「まあ、もうお忘れになつたの?」 「……いゝえ、あの…

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第二十五巻第十二号」朝日新聞社、1934(昭和9)年3月11日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日