ふねのなかのねずみ
船の中の鼠

冒頭文

一 都を遠く離れた或る片田舎の森蔭で、その頃私は三人の友達と共にジヤガイモや唐もろこしを盗んで、憐れな命をつないで居りました。あの村へ行けば、小生の所有になる古いけれどいとも大きな水車小屋があつて、明けても暮れても水車がどんどんと回つてお米を搗いて呉れるから、俺達の三人や五人は腕組をしてゐても安心だ、蜜柑畑もあるし麦畑もあり、海のやうに拡い稲の田もある、蜜柑を売り、麦は水車に搗かせてさへ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文學界 第一巻第二号」文化公論社、1933(昭和8)年11月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日