ふうりゅうりょこう
風流旅行

冒頭文

一 一ヶ月あまりは、またそれで旅に暮しても十分とおもつてゐたのに、私は迂闊にも自分が再び相当の飲酒者に立ち戻つてゐたのを忘れてゐた為に、二三ヶ所をわたり歩いて未だ二週間も経たぬ間に、もう国元へ電報を打たなければならぬ状態だつた。私は従来何んな類の旅の経験も知らない所為か、何処に泊つても滑稽なほど臆病で、財布のことばかりを気にしてゐるにも拘はらず、毎晩十二時過ぎまでも酒を飲まずには居られな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮 第三十三巻第二号」新潮社、1936(昭和11)年2月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日