なんぷうふ |
| 南風譜 |
冒頭文
一 卓子(デスク)に頬杖をして滝本が、置額に容れたローラの写真を眺めながら、ぼんやりと物思ひに耽つてゐた時、 「守夫さん、いらつしやるの?」 と、稍激した調子の声が、窓の外から聞えてきた。 (誰だらう?) 滝本は、この時、見境へもなく、返事が出来るほど、心が晴れやかでなかつた。 「矢ツ張り、留守なのか知ら?」 と、窓の外の人は呟いだ。 それで、滝本に——百合子だ……と解つた。恰で、他人
文字遣い
新字旧仮名
初出
「婦人サロン」文藝春秋社、1931(昭和6)年5月~10月
底本
- 牧野信一全集第四巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年6月20日