さけぬすっと
酒盗人

冒頭文

私は、マールの花模様を唐草風に浮彫りにした銀の横笛を吹きずさみながら、 ………………おゝ これはこれノルマンデイの草原から長蛇船(ロングサーバント)の櫂をそろへて勇ましく波を越え また波と闘ひ月を呪ふ国に到着したガスコンの後裔……………… と歌つた。 節々をきざむ私の指先が、花模様の笛に反射する月の光りのうへに魚となつて躍つてゐた。——明る過ぎる月夜の街道であつた。笛を吹く私のシルエツトが

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第十巻第二号」文藝春秋社、1932(昭和7)年2月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日