こがらしのふくころ
木枯の吹くころ

冒頭文

一 そとは光りに洗はれた月夜である。窓の下は、六尺あまりの探さと、三間の幅をもつた川だが、水車がとまると、水の音は何んなに耳を澄ましても聴えぬのだ。 「寒いのに何故、窓をあけておかなければならないのだ?」 俺は囲炉裡のふちで、赤毛布にくるまつただるまであつた。彼は返事もせぬのである。 俺たちの頭の上のラムプは、暗かつた。太吉は、むつと腕を組んで、ラムプよりも明るい月の光

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」1934(昭和9)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日