きゆうおうらい (ひっこしをするおとこ)
奇友往来 (引越しをする男)

冒頭文

いつも私はひとりで、教室の一番うしろの席について、うつらうつらと窓の外を眺めてゐる文科の学生であつたが、毎時間毎時間そんな風にして居眠りをしたり、屋根を見あげたりしてゐるうちに、恰度私の窓と真向ひにあたる政治部の教室で、やはり私と同じやうにぼんやりとして此方の窓を眺めたり、空を見あげたりしてゐる眼の据つた何処となく鷲を想像させるかのやうな精悍な容貌の学生と顔なじみになつてしまつた。やがて彼は、私と

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 オール讀物 第三巻第七号」文藝春秋社、1933(昭和8)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日