おんなにおくびょうなおとこ
女に臆病な男

冒頭文

一 務めの帰途、村瀬は銀座へ廻つて、この間うちから目星をつけておいた濃緑地に虹色の模様で唐草風を織り出したネクタイを一本購つた。六円あまりだつた。——少々自分の分在には不相応のやうでもあり、失敗したかな? といふ軽い不安と、別に、つゝましく豪華な買物をしたやうな秘かな興奮を覚えながらいそいそとしてバスに乗つた。然し、バスに揺られながら尚もポケツトにしまつたネクタイのことを考へると、たつたそれ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 オール讀物 第四巻第三号」文藝春秋社、1934(昭和9)年3月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日