あわゆき
淡雪

冒頭文

病弱者、遊蕩児、その他でも行末に戦人としての望みが持てさうもない子息達は凡て離籍して近隣の漁家や農家へ養子とするのが、昔その城下町の風習だつた。だが桑原家の主人は、そんな理由もなかつた長男を浦賀町の漁家へ、次男を風祭村の農家へ養子として片づけ、三女の園に自分の弟の息子を迎へて家系を継がせる筈だつた。その主人は桑原家の二度目の養子で、子息達は三人ながら彼の実子ではなかつた。園は十六の時、Fといふ可成

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第十三巻第十二号」文藝春秋社、1935(昭和10)年12月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日