ベッコウばち
ベツコウ蜂

冒頭文

一 ひとりのスパルタの旅人が述べてゐた。 「わたしの国では凡ての人が、若しも乱酔者を発見した場合には直ちに彼を捕縛して厳罰に処し、鉄窓のもとにつなぐべき権利を附与されてゐる。更に法律は、犯人に如何なる口実があらうとも裁判に問ふべき余地をも許さず、従令それがデイオニソス酒神の祝祭日であらうとも断じて彼を釈放せしめなかつた。」——と。 僕は、まことに極りもなく野卑であり、破廉恥な

文字遣い

新字旧仮名

初出

「行動 第一巻第三号」紀伊国屋出版部、1933(昭和8)年12月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日