ふゆものがたり
冬物語

冒頭文

一 その田舎の、K家といふ閑静な屋敷を訪れて、私は四五年振りでそこの古風な庭を眺めることを沁々と期待してゐたが、折悪しく激しい旋風がこゝを先途と吹きまくつて止め度もなく、遥かの野面から砲煙のやうに襲来する竜巻の津波で目もあけられぬ有様だつた。 「何もこの風は、けふに限つたことではありはしない。大体冬ぢうは吹き通す風さ。」 とK家の主の銑太郎は、風流さうな顔つきを曝して遥々とや

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中外商業新報 第一七九六四号~第一七九六六号」中外商業新報社、1936(昭和11)年1月24日~26日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日