つきあかり
月あかり

冒頭文

このごろ私は、ときどき音取(おんどり)かくからの手紙(代筆)を貰ふので、はぢめてその音取といふ苗字を知つた次第でありますが、それまではその人の姓名は怒山(ぬやま)かく——かとばかりおもふて居りました。ところが怒山といふのは、その人の村の名称だつたのです。左う云へば人々は、その人のことを怒山のおかくと称んでゐたのに気づきました。また、おかくに限らず町の人達は、それらの村の人々を区別するには苗字の代り

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第十二巻第四号」文藝春秋社、1934(昭和9)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日