たきのあるむら
滝のある村

冒頭文

一 僕はね、親父たちが何といつたつて、キエ、お前と、結婚するよ……。 三千雄は、はつきりと、いく度もキエの手をとつて、さうはいつてゐたものゝ、キエは、里にかへつて日が経つにつれて、哀しさといふほどのこともなく、むしろ苦笑に似たものを感じた。何か、もう、断ち難い関係でもがあるかのやうに、三千雄の親たちが騒ぎ出したので、キエは自分から先に暇をとつて里に戻つた。自分は女中なのだから——と

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第二十七巻第十四号」朝日新聞社、1935(昭和10)年3月24日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日