こがらしにっき
凩日記

冒頭文

* 心象の飛躍を索め、生活の変貌を翹望する——斯ういふ意味のことは口にしたり記述されたりする場合に接すると多く無稽感を誘はれるものだが、真実に人の胸底に巣喰ふ左様な憧憬や苦悶は最も原始的に多彩な強烈さを持つて蟠居する渦巻であらう。僕も亦不断に斯る竜巻に向つて戈を構える包囲軍中の一兵卒である。勇敢なる軽騎兵だ。然し僕は、余りに激烈なる突撃のために、屡々自己を見失つて乗馬の鞍から転落する。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第四十八巻第十二号」中央公論社、1933(昭和8)年12月1日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日