ぎわくのしろ
疑惑の城

冒頭文

——嘘をつくな、試みに君の手鏡を執りあげて見給へ、君の容色は日増に蒼ざめてゆくではないか、吾等は宇宙の真理のために、そしてまた君が若し芸術に志すならば、芸術のために蒼ざめるべきではないか——。 こんな風な調子の手紙を三枚四枚五枚と書いてゆくうちに夜は白々と明けてきた。サンタ・マリアの暦をはぐと、四月の十二日(一九三三)であつた。 暦の端には、 「聖女ローザ童貞——我汝等に

文字遣い

新字旧仮名

初出

「四季 第二冊」四季社、1933(昭和8)年7月20日

底本

  • 牧野信一全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年7月20日