かいろ
海路

冒頭文

「登志さん、果物でも持つて行つたらどうなの、雑誌ばかり読んでゐないで……」 ナイフや皿の用意をととのへながら、母は登志子を促した。 「キクに言つてよ。あの集りの中へ這入つて行くのは、あたし何だか気まりがわるいのよ、あたしが行くと皆が変に黙つてしまふんですもの……」 「お前さんが、あんまり気どつてゐるからぢやないの。」 「まあ、ひどいわ、母さんたら……」 二人が、そんなことを言

文字遣い

新字旧仮名

初出

「令女界 第十四巻第六号」宝文館、1935(昭和10)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日