かいだん
階段

冒頭文

一 川瀬美奈子——。 さういふ署名の手紙が久保に、はじめて寄せられたのは、三年も前のことである。久保は、手紙を書くのが不得手だつたので、まつたく返事を出したことはなかつたが(それに、何時のでもそれは返事を必要とする手紙ではなかつたからでもあるが——。)必ず一ト月のうちには一二度宛、自分の消息やら久保の作品に寄せる好意の言葉などを誌してよこすのが常だつた。 久保はアパートに

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人サロン 第四巻第五号」文藝春秋社、1932(昭和7)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日