おうむのいるへや
鸚鵡のゐる部屋

冒頭文

一 フロラが飼つてゐる鸚鵡は、好く人に慣れてゐて籠から出してやると、あちこちの部屋をヨタヨタと散歩したり、階段を滑稽な脚どりで昇り降りしたりするが、 「お早う」も、 「今日は——」も知らなかつた。せめて二つや三つの言葉位は教へようと、はじめのうちは皆がかはるがはる努力したが、まるで教師を馬鹿にしてゐる見たいにキヨトンとしてゐるばかりで、決して何んな簡単な言葉でも覚えなかつたから、今で

文字遣い

新字旧仮名

初出

「令女界 第九巻第十二号(十二月号)」宝文館、1930(昭和5)年12月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日