かざし
挿頭花

冒頭文

戸隠の月夜は九月に這入(はい)ると、幾晩もつづいてゐた——。 昔、寺侍が住んでゐた長屋、そして一棟の長細い渡り廊下のやうな納屋の壁にそつて、鶏頭の花が咲いて、もう気の早い冬支度か、うづ高く薪が積まれてゐた。 古いイメージのやうな破風の藁屋根の影を踏んで屋敷の周りを一巡すると、私は前庭に出て、そのまま、廊下から庭に面した書院造りの一間に通つた。 本坊の庭は、今の主人(あ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 花の名随筆9 九月の花
  • 作品社
  • 1999(平成11)年8月10日