よろいのそうわ
鎧の挿話

冒頭文

五人力と称ばれてゐる無頼漢の大川九郎が今日はまた大酒を呑んで、店で暴れてゐる——と悲しさうな顔で居酒屋の娘が、私の家に逃げて来た夕暮時に、恰度私の家では土用干の品々を片附けてゐたところで、そして私は戯れに鎧を着、鉄の兜を被つて、ふざけてゐたところだつた。私は、喧嘩や力業には毛程の自信もなかつたが、 「怪しからん奴だ!」と呟いて、そのまゝ居酒屋へ赴いた。 「妙(たへ)公、出て来い、さあ、出て

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第十八巻第十九号」朝日新聞社、1930(昭和5)年10月26日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日