やまをくだるいったい
山を降る一隊

冒頭文

「メートル係り。」 それが私の仕事である。 伐木場から橇で運ばれて来る木材の切り口を物差で計るのである。私は槍のやうに長い物差を振り廻して木口の寸法を計ると、 「何メートル、何々……」 と非常に大きな声で——相当の間隔のある事務所の窓口でそれを即座に記帳する係の者に一ト声で易々と聞きとれる程度に、だから、それは兵卒に向つて照尺の度合を命令する指揮官の号令ほどの明確さと声

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 第十七巻第一号」朝日新聞社、1930(昭和5)年1月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日