やどりぎとなわばしご
寄生木と縄梯子

冒頭文

「ヤドリ木——知つてゐますか?」 「……知らんのう、実物を見たら、あゝ、これか——と思ふかも知んないが……ヤドリ木? 聞いたこともない。」 誰に訊ねても同じ返答ばかりであつた。私は、小屋を出てから同じ質問を若い木挽にも訊いた。山頭(やまがしら)の炭焼の老人にも訊いた。鈴を鳴して橇道を滑走して来る橇の一隊をさへぎつて、皆なに訊いたが、一様に首をかしげて顔を見合せてゐるだけだつた。 「有

文字遣い

新字旧仮名

初出

「婦人サロン 第二巻第十二号」文藝春秋社、1930(昭和5)年12月1日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日