ばじょうのはる
馬上の春

冒頭文

上 私たちが、その村に住んでゐたころ——では、今年の正月は、いつものやうに朝から晩まで酒を飲んでは議論をしたり喧嘩をしたりしてゐても止め度がないから、 「今年はひとつ——」 と、私達の伊達好みの戯談好き(アストラカン)の村長が提言しました。「大いに趣向を変へて——馬を引け! 近郷の村々を訪れて、飲み歩かう。皆々思ひをこらして、思ひ思ひの仮装にこの身を固めて、馬上の騎士とはならう。」

文字遣い

新字旧仮名

初出

「大阪毎日新聞」1932(昭和7)年1月3、5日

底本

  • 牧野信一全集第四巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年6月20日