なみのたわむれ
波の戯れ

冒頭文

春、二三日のこと 春だつた——といふだけのことである。そんな日を特に選んで誌したといふわけではない。日誌を誌す要に迫られて、いきなり、その日のことを書き誌したものに過ぎない。だが、日が経つて、再びそんな稿を翻して見ると、無意識なる、凡々たる日録のうちにも、何か、再び廻り合せぬかの如き心の媚惑と、「物質の鉄則から釈放されたる宇宙」に向つての止め度もなき霊の推進器(スクリウ)の飽くなき回転の響き

文字遣い

新字旧仮名

初出

「創作月刊」文藝春秋社、1928(昭和3)年4月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日