たそがれのつつみ
黄昏の堤

冒頭文

一 小樽は、読みかけてゐるギリシヤ悲劇の中途で幾つかの語学に就いての知識を借りなければならないことになつて、急に支度を整へて出かけた。停車場の辺まで来ると時間で出るバスが恰度出発したばかりのところで、走つて行くのが行手に見えた位だつたので、一層一ト思ひに! と思つて、大胯で歩き出したのである。 彼は真向うに見える丘を一つ越えた村にゐる友達の青野を訪れるのであつた。少々歩を速めれば、国道

文字遣い

新字旧仮名

初出

「若草 第五巻第十号」宝文館、1929(昭和4)年10月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日